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会長あいさつ

 本学会は、数学教育の歴史的研究を推進する日本で唯一の学会として2000年11月に設立されました。数学教育や教育方法史の研究者など、多様な背景を持つ研究者で構成されています。毎年、総会・研究発表会を行うとともに、『数学教育史研究』を刊行しています。

 なぜ数学教育を歴史的に研究する必要があるのでしょうか。この問いは大事な問いです。
 私たちの将来をめぐる選択は、過去に対する私たちの認識を基盤としています。これまでの数学教育が順調に進歩してきたという歴史認識を持っている場合、明日の教育も従来の路線の延長線上で考えてよいということになるでしょう。他方、これまでの教育が大きな問題を抱えており、それが解決されないまま今日にいたっているという歴史認識を持っている場合、問題が再生産されるメカニズムに光を当てなければ、望ましい教育への転換は難しいという結論にいたるでしょう。歴史的な研究は過去のことがらを扱いますが、それは単に昔のことを明らかにすることを目的とするものではなく、根拠のない願望や思い込みによってゆがんだ歴史像を史料に即して見直すことによって、新しい教育を構想するための議論の前提を作るものです。

 

 歴史的な研究を進めるうえで、いろいろな背景を持つ研究者がいるという本学会の特徴は最大の強みになります。というのも、教育のあり方は将来のあるべき社会像と関わっていることから、教育をめぐる議論は価値観の対立となって現れます。本学会は、異なる背景を持つ研究者の共同作業によって、価値観の表面的な対立を超えた、より広い共通理解を作る活動を推進しています。本学会は開かれた議論の場を提供します。

 さて、これまで述べた通り、歴史的な研究は私たちの歴史認識を点検するものですが、史料は数学教育に直接携わっている方々にとって実践的な価値も持っています。数学教育の歴史は改革の歴史です。問題を認識し、改革の第一歩を踏み出した先人の言葉から学ぶことは多いでしょう。また、過去の教科書を見れば、私たちの数学教育のイメージがいかに現在の日本に限られているかに気づかされます。2次方程式の解の公式をあえて空欄にした教科書など、日本に限っても、驚くべき教科書が多数あります。そのような史料との出会いを通じて数学教育の見方を広げたいという方も、ぜひ本学会への入会をご検討ください。

 

 2023年より、学会員でない方も参加できる談話会を開催することを予定しています。入会を検討している方は談話会への参加をお勧めします。

日本数学教育史学会会長(第6代) 佐藤英二

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