日本数学教育史学会は、2000年11月、「日本ならびに諸外国の数学教育の歴史およびそれに係る諸課題に関する研究を推進すること」を目的として創立されました。創立以来、今日まで、学会誌『数学教育史研究』の発行、研究発表会(年1回)等の開催を通して、数学教育史についての研究成果の公開、情報および意見の交換を行ってきました。2023年からは、談話会(年3回)を開催しています。学会誌についても、「研究論文」、「研究ノート」等に加え、「研究方法」、「教師教育」、「教材開発」等の新しいカテゴリーを設定する等、内容の充実に努めています。数学教育の発展に力を尽くされた方々への聴き取り調査を実施し、その結果を記録として残す取り組みも続けています。今後、著作物の公刊、史料集の編纂等についても検討を進める予定です。
数学教育に限らず、すべての存在は歴史的性格を備えています。私たちが数学教育について考える際に、現在、存在している枠組みに束縛されていることは否定できません。ただし、ここで忘れてはならないことは、現在、存在している枠組みも、歴史的産物、すなわち、長い時間をかけて歴史的に形成されてきたものであるということです。
特に教育の場合には、現在、存在している枠組みが、歴史の試練に耐え、教育実践の検証を経た、最も進歩した精度の高い枠組みであるとは限りません。教育実践による検証を経ずして、あるいは、教育制度の改編によって、政治的・社会的動向の変化によって、捨て去られ、忘れられてしまったアイデアは決して少なくありません。そのような歴史的過程を検証することによって、私たちは、現在、存在している枠組みを対象化し、その有効性と限界を認識すること、それによって思考の自由を獲得する可能性を拓くことができるのです。
私たちの学会には、数学、数学史、数学教育、教育学等、様々な分野を専門とする会員が所属し、各自の関心に従って研究に取り組み、その成果を発表・交流しています。特に、談話会は、すでに発表した論文の解説、執筆にあたっての苦労等を語る場であると同時に、会員以外の方にもご出席いただける貴重な場です。数学教育が辿ってきた歴史的過程を検証することによって、思考の自由を獲得する可能性にチャレンジしたいとお考えの方には、ぜひ、本学会にご入会頂き、私たちと一緒に研究に取り組まれることを希望しています。
日本数学教育史学会会長(第7代) 岡野勉